ずっと漠然と頭の中にあったヒカル君の妹、美音ちゃん。

小さい頃から、天才努力家の父親と天才肌の母親
そして何においても完ぺきな兄(美音ちゃん目線)

その中で、のびのびと育った美音ちゃん。

両親譲りのピアノの腕前なのに、特にプロになるわけでもなく
ずっと趣味の範囲で、楽しんで弾いていた美音ちゃん。

10代後半からは、学生生活と平行に、母親の付き人をしながら
エリーゼの指導で、マネジメントの勉強をして
大学もそっち方面に進み
今や立派なシュトレーゼマン事務所の敏腕マネージャー。
ピアノの腕も健在で、時間のある時は
ボランティアで子供たちにピアノを教えている。


そんな美音ちゃんも、そろそろというか、とっくに結婚適齢期。
ここらで、美音ちゃんの色恋話でも、綴ってみようかね・・・。





☆☆☆



ある年の初夏、ヒカルと楓は
バカンスで日本に帰国していた。

まだ二人は結婚しておらず
ヒカルは音楽プロデュサー的な位置で
作曲や編曲、公演の音楽監督など
多方面で活躍中。楓は清良の元で修行中。


ある夜、小島邸の楓の部屋で、二人でくつろいでいると

・・・・ヒカルのスマホにLINEが入る。


♪LINE♪


「ん?」


見ると、現在、フランスにいる聖良からだった。


♪今、電話平気?♪


♪テレビ電話でOKだよ♪


ヒカルの隣で、雑誌を読んでいた楓が


「誰から?」

「うん、聖良から、何だろう?」


ヒカルは
PCでテレビ電話にアクセスした。

しばらくすると
パソコン画面に聖良の顔が映し出される。
(奥には、風雅の娘の彩良ちゃんも映っている)


「ヒカル、楓ちゃんも、アロ~久しぶり元気?」

「あぁそっちは、皆元気そうだね」

「こんにちわ、聖良さん」

「彩良が、歩き出して、目が離せなくて、大変よ~」


と言いながら、笑顔の聖良。

画面の奥では、風雅が彩良をあやしている。


「風雅は、すっかりパパの顔だな」

「うん、家にいる時は
いろいろやってくれるから、助かってるわ
ヒカルも、子供出来たら
ちゃんと面倒見てあげるのよ」

「聖良、気が早いから・・・
で、何か用があって、かけて来たんだろう?」

「あっそうそう、美音ちゃんに頼まれてね」

「美音に?何を?」

「うん・・・美音ちゃん、ヒカルが日本に行く前に
本当は言いたかったらしいんだけど・・・・」

「?」

「明日ね・・・会わせるんだって・・・」

「?会わせるって?」

「ヒカルパパに、彼氏?というか・・・結婚相手?」


ヒカルはビックリして


「・・・!?え?はぁ何?結婚相手って?」


楓は嬉しそうに


「やっぱりそうだったんだ」

「え?」
「へっ?」


楓の言葉に画面の向こうの聖良と隣にいるヒカルが
ほぼ同時に、声を出して、楓を見た。


「楓、お前知ってたの?」

「ん~知ってたって言うか・・・
なんとなく?・・・女のカン?えへへ」

「女のカンって・・・・何で教えてくれなかったの?」

「だって~知られたくなさそうだったし・・・・
でも、のだめさんも気が付いてたと思うよ・・・多分」

「母さんが?」

「さすが女性陣は、敏感ね・・・
それに比べて、ヒカルは相変わらず
そう言う所は、鈍感なんだから・・・・」

「相変わらず?って?」

「あっそんな事は、どうでもいいのよ
そういう事だから、ヒカルには改めて
パリに戻って詳しく話すって言ってたから」

「そう言う事って・・・・
聖良は、相手の事知ってるのか?」

「・・・だから、それも含めて
戻ったら話すって、じゃぁまたね!」

「おい!聖良!」


聖良は、さっさと通信を切ってしまった。

ヒカルは、呆然としている。

そんなヒカルを見て
楓はちょっとやきもち焼いて


「そんなに美音さんの結婚が、ショックなの?
ヒカル君ってシスコンだったんだ・・・」

「シスコンって・・・ショックって言うのもあるけど・・・
なんかボクの中では
まだあいつは、13歳の時のままなんだよ・・・」

「?」

「例の事があって、ボクが日本に来た時、
美音は13歳になったばかりだった・・・
それからの約10年・・・
まったく会わなかったわけではないけれど・・・
でも・・・正直、久しぶりに会う妹と
何話していいか、わからなかったし・・
あの頃のボクは、自分の事で精一杯で・・・
美音の辛さなんて理解してなかった・・・」

「・・・それって、私にも責任があるわね・・・」

ヒカルは首を振り

「ううん、楓には何も・・・で、10年ぶりにパリに戻った時
そこには、昔と変わらない笑顔の美音がいた・・・
ホッとしたのもつかの間・・・・
10年分の文句言われたよ・・・あはは」

「美音さんも、嬉しかったんじゃないの?
大好きなお兄ちゃんが戻って来てくれたって・・・」

「・・・だから見た目は、大人だけど、ボクの中では
いつまでもあの頃の美音のままなんだ・・・
だから・・・そんな美音が結婚なんて・・・」

「・・・・なんか羨ましいな・・・」

「え?」

「今の私には、血のつながった兄妹がいない・・・
遼ちゃんが生きてたら
どうだったんだろう?
姉として、遼ちゃんのお嫁さんになる人の事
どう思うんだろうな・・・・って。」

「楓・・・・」


ヒカルは思わず、後ろから楓を抱きしめる。


「ボクたちが結婚したら、美音は楓の妹になるんだよ・・」

「年上のね・・・なんか複雑・・・えへへ」


二人は、見つめ合い静かにキスをする・・・。


「あっ・・・」


楓が、ふと何かを思い出す。


「どうしたの?」

「ねぇ・・・娘の結婚って・・・・
父親にとっては一大事なんじゃないの?」

「え?」

「だって・・・私の時だって・・・
あの正太郎おじさんですら、ああだったのに・・・」





(回想)

小島夫妻に、改めて結婚することを伝えた時・・・。

薫は、ニコニコして

「よかったわね~楓、幸せになるのよ!」

正太郎は、ボロボロ涙を流し

「ヒカル君なら、もう大丈夫だと思うけど
いつかみたいに楓ちゃんに哀しい思いさせたら
今度は許さないからね!頼んだよ
楓ちゃんもヒカル君と喧嘩したら
いつでも帰ってくるんだよ」

「おじさん、まだ気が早いよ、実際結婚するのまだ先だし」





そんな正太郎の事を思い出したヒカルは、不安になり

「・・・・たしかに・・・・大丈夫なのかな?父さん・・・」

ヒカルは、真一に連絡してみようと
スマホを掴もうとしたとき

コンコン

「ごめん、お邪魔かもしれないけど
そろそろオケの練習時間なんだけど・・・」


薫が、呼びに来た。

二人共時計を確認し

「あっ本当だ、もうこんな時間」

ヒカルは、スマホを握り締め

「いいや、父さんには、後で連絡するよ」

「うん、そうだね、じゃぁ行こう」

二人は、身支度をして、部屋を出て行った。








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