10年ぶりにパリに戻ってきたヒカル。

美音から、風雅がマルレで指揮すると聞いて
会いに行こうかどうか悩んでる・・・・



☆☆☆


朝、美音が慌ただしく、階段を駆け下りる。


「美音、もう少し静かに出来ないのか?」

「だって、飛行機に間に合わなくなっちゃう」

「昨日のうちに、準備してたんじゃないのか?」

「したつもりで、うっかり寝ちゃったのよ、起きたら
出来てなかった・・・」

「そういうとこ、母さんにそっくりだな」

「お兄ちゃんこそ、その言い方、パパそっくり」


美音は、下を出して、バスルームに走っていく。


「しょうがないな・・・」

「きっとヒカルさんが帰られて
よっぽど嬉しかったんじゃないですか?」

「え?」

「美音さん、私にヒカルさんの話をされるとき
嬉しそうに話されるんです。
で、必ず、お兄ちゃん、いつ帰ってくるんだろうって 
涙ぐんでいらっしゃるんですよ
本当に、ヒカルさんの事が大好きなんですね」


ヒカルは何も言えなかった。


「ちょっと沢木さん、何話してるのよ
余計な事、お兄ちゃんに言わないでよ
そんなの嘘だからね、本当にもう」


ディ~ンゴ~ン


「あっやばい、もう迎えが来ちゃった」

「美音、急げ!荷物は、ボクが運ぶから」

「あっありがとう」


恥ずかしそうに礼を言って、美音はバックをつかみ
ヒカルの後に続いて、玄関を飛び出した。


「気を付けて行って来いよ~」

「うん、沢木さん、お兄ちゃんの事、ヨロシクネ~」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」


美音を見送り、二人は家の中に入る。


「朝の風景だけは、昔と変わらないな・・・いい加減成長しろよ」


といいながらも、笑みがこぼれるヒカル。

沢木も、そんなヒカルを見て、微笑みながら


「にぎやかで、楽しゅうございますね、さぁお洗濯しますよ。
ヒカルさん、洗うものあったら、お出しください。」

「あっはい」







ヒカルも、家事を手伝いをしている。


「もうヒカルさん、休んでればいいのに
私の仕事が無くなってしまいます。」

「すいません、でも、働かざる者食うべからずです」

「おや日本のことわざ、よくご存じですね」

「日本で、お世話になった人に、良く言われました」

「なるほど、美音さんもそうですが
厳しく育てられたのですね
失礼ですが、私初めは、甘やかされて育てられた
お子様たちではないんじゃないかと
覚悟してまいりました。」

「そうなんだ」

「でも、美音さんも、ご自分の事はもちろん、
お母様の身の回りの事まで
率先してお世話して差し上げてるのをみて
この沢木、とても感心いたしました。」

「まぁそれは、そう育てられたというより
そうせざる負えなくて
自然とそうなったというか・・・・ポリポリ

「そうですね、奥様見てると、そうだろうな・・・と。
あっ失礼を申しました。」

「いや、本当の事だから(笑)
小さい頃は父さん見てると、大変そうだなって
思う事もよくあったし・・・
でも、自分が大きくなるにつれ
あの両親を見てると
羨ましいなって思うようにもなったんだ」

「羨ましい?」

「あの二人は、本当にお互い信頼しあってる
特に音楽の面では
父さんは、もともと音楽バカだから、どんなに変人でも
音楽の面で、尊敬できれば
すべて受け入れられる人なんだ
ミル・・マエストロ・シュトレーゼマンがどんな人だったかは
知ってるでしょ?」

「ええっまぁ」

「父さんは、マエストロ生涯ただ一人の弟子と言われている
音楽なかったら、ただのスケベ爺さんなのに(笑)
母さんも一緒なんだ、あの人がどんなに変態でも
突然奇声をあげても
母さんのピアノが大好きなんだ、母さんがピアノ弾くと
どんなに怒っていても全部許しちゃう、すべてひっくるめて
母さんの事愛してるんだ・・・そんな人なんだよ」

「素敵なご夫婦なんですね・・・
ところで、突然奇声あげるってなんでしょう?」

「あぁその辺は気にしないで下さい、昔の話です。」


ヒカルは、慌ててごまかした。


(今は奇声を上げないのか)


「あっそうだ、ボク今日は、携帯?契約してこようかと
日本のは、解約してきてしまったので・・・」

「了解しました。
たしか〇〇通りに、お店があったと思いますが・・・」


ヒカルの顔が曇った。


「〇〇通り?他にないのかな?」

「う~ん、すいません、存じ上げません」

「わかりました、行ってみます。」

「お昼は戻られますか?」

「いや・・・ちょっと寄りたい所があるんで
帰りは何時になるか・・・後で電話します。」

「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」

ヒカルは、一旦部屋に戻って
着替えてから出かけた。








数時間後

Trurururruru

「アロ~あっヒカルさん、はい、この番号ですね
わかりました。記録しておきます。
かしこまりました。」

ヒカルは、新しくスマホを手に入れ、沢木に連絡し
カフェで一息つく。

「ふぅ~」

ヒカルは、ポケットから小さい手帳をだした。

電話番号の欄を開いて、番号をいくつか登録したあと
店を出て、マルレ・オケの拠点のブラン劇場に向かった。







ブラン劇場の近くの公演のベンチ。
一人の男性がベンチにすわって
楽譜とにらめっこしている。

Trurururur

「?アロ~?」

「アロ~」

「ん?誰?」

「おいおい、親友の声忘れた?」

「親友?え?ヒカル?」

「おう、久し振り」

「何だよ~お前
今まで何してたんだ!一年以上も連絡なしで」

「悪い悪い」

「今どこにいるんだ?東京か?」

「ふふふ・・・どこにいると思う・・・?」

「え?」

後ろに気配を感じ、風雅は振り向いた。

「ヒカル!!」

「よっ!」

二人は、久しぶりの再会にハグし、喜び合った。







「どうしたんだよ、突然」

「いやちょっといろいろあって・・・」

「・・・ふ~ん」

「そっちこそ、どうなんだ?マルレ・オケは?」

「ん~中々難敵ぞろいだ」

「やりがいあるだろう?」

「まぁね、そうだ、今日ヒカルなんか予定あんのか?」

「いや、特に・・・お前の顔見に来た」

「じゃぁ練習の後、飲みに行こうぜ
話したい事もあるしよ」

「あっうん、いいけど」

ヒカルは、風雅の好意で、練習を見学させてもらった。






その日の夜

二人は街中のBARで、再会を祝して

「CINCIN!(乾杯)」


「久しぶりのオレの指揮、どうだった?」

ヒカルは渋い顔した後

「ん~・・・・(ニッコリ笑って)よかった。
俺が言うのもなんだけど
随分上手くなったと思うよ、指示とかも的確だったし
曲の理解度も風雅なりの解釈で、面白かったし
なんか父さんとジャンのいい所を
上手く取り入れてるって感じだった」

「なんか凄い褒めようだな、何にも出ないぞ」

「あははは、嘘じゃないよ、本当、よかった・・・」

「・・・・・で?お前は、こんなところで何してるんだ?」

「・・・うん・・・」


ヒカルは、痛い所付かれ、黙り込んでしまった。


「日本で何かあったのか?
大きな仕事が入ったって聞いてたけど・・・」

「・・・まあね、でもクビになった」

「は?クビ?なんでまた?なんかヘマしたのか?」

「まぁそういうわけじゃないんだけど・・・
まぁいろいろさ」

「何だ、それ?」

「そういえば今日さ・・・
こっちで使う携帯契約して来たんだけど・・・」

「あぁさっきの?
誰かと思って、出るのやめようかと思った」

「その店が・・・あの通りにあるんだ・・・」

「あの通り・・・?あっもしかして?」


ヒカルは頷いて、目を閉じた。


~~~~~回想シーン~~~~~

「やめろよ」

「舞!」

「ヒカル、風雅!」

「何だよ、邪魔するな・・・これは、俺たち二人の問題だ・・・」

男の目は、血走っている・・・

「こいつ、やばいんじゃない?」

「ああ」

「聖良、お前は中入って、扉閉めろ」

「え?でも・・・」

「舞の腕、離してやれよ痛がってるじゃないか」

ヒカルは舞を助けようと、男に近づく。

「うるさい!!」

男はポケットから刃物を出した。

通りすがりの人たちもざわつき始めた。

「風雅、聖良を頼むオレは、舞を何とかする」

「わかった、気をつけろよあいつ絶対正気じゃない」

「あぁ」

風雅が、聖良のいる方向へ動き出した瞬間
男が風雅に襲い掛かりそうになったそれを見たヒカルが
咄嗟に風雅の方へ

「風雅あぶない!」

参照:36~38「ノエルの悲劇」より

~~~~~~~~~~~~

静かに目を開けるヒカル。


「店は変わってたけど
あの場所は、あの時のままだった・・・」

「そっか・・・オレも、しばらく行ってないけど・・・」

「でも・・・思ったより、辛くはなかったよ・・・・
もっとグチャグチャになるかと思って
覚悟して行ったんだけどな・・・」

「それだけ月日が流れたって事だろう?」

「そうなのかな・・・たしかに10年って、あっという間で
長いのかもしれない・・・美音に散々文句言われた(笑)」

「あははは、そうか10年か・・・
そういえば美音は、突然お前がいなくなって
かなりショック受けてたな・・・・」

「うん・・・・そうだってな・・・
ボクは、全然知らなかったんだ・・・
あの時は、自分の事で精一杯で・・・・
風雅に対してもそうだったけど
周りの人の気持ちなんて全然考えなかった・・・・・」

「まぁそれはそれで、しょうがなかったんじゃないか・・・
実際あの時一番つらかったのは、お前だったんだし・・・・・」

「・・・うちの両親も、あの時は気持ちよく送り出してくれたけど
やっぱり心配してくれてたんだろうし・・・・」

「たしかに、師匠もお前が日本に行った後、しばらくの間
龍さんや真澄ちゃんにしょっちゅう電話して
お前の様子聞いてたんだぞ」

「やっぱり・・・今思えば・・・父さんが電話くれる時って
いつもタイミングがよくて・・・・そうか・・・」

「まぁそれだけ、お前が愛されてるって事なんじゃない?
で?これからどうするつもり?
このままパリでくすぶるつもりはないんだろう?」

「・・・まぁ・・・なんかパリに帰ってきて、まだ二日目だけど
美音と沢木さんに沢山話聞いて、あの場所にも行って
風雅の指揮姿見て、いろいろ考えさせられた・・・・」

「10年か・・・・オレもいろいろあったな~」

「そうだろうな・・・・そういえば・・・
お前もなんか話があるんだろう?」

「え?あぁまぁ・・・・さっきの話じゃ
こっち来る前・・・龍さんにあった?」

「会ったけど・・・っていうか、パリに行って来いって
言ってくれたの、峰さんだし」

「俺たちの事・・・何も聞いてないよな・・?」

「お前たちの事?風雅と聖良の事?」

「うん・・・」

「・・・特には・・・」

「やっぱり自分で話せって事か・・・」

「?」

「いや、本当はもっと早い時期に
ヒカルには話をしたかったんだけど・・・
全然連絡取れなかったし・・・」

「あぁ悪い・・」

「師匠にも相談したんだけど・・・
やっぱり俺自身から、直接伝えた方が
いいんじゃないかって・・・・」

「?一体、何なんだよ?え?まさか、お前ら別れたとか?」


「バカッ!んなわけないだろう!!」

「じゃぁなんだよ!」

「いや~実は・・・3か月後位に・・・家族が増えるんだ・・・」

風雅は照れくさそうに、段々声が小さくなっていった。

「?家族が増える?・・・え?まさか、子供か?」

風雅は頷く。

「すげ~おめでとう!え?風雅と聖良が、親になるの?
いや~想像出来ないけど、やったな!え~~~と、
おめでとう!!やっぱそれしか思いつかないよ」

ヒカルは、予想しなかった、めでたい話に興奮を
抑えられず、風雅に抱き着いた。

「あっありがとう、喜んでくれてうれしいよ」

「聖良は?まだオケに出てるの?」

「まぁ安定期入ったし、様子見ながらね」

「それにしても、よく峰さん黙ってたな」

「報告した時は、電話の向こうで
よっしゃ~!って言った後に
泣いてたらしい・・・・」

「そりゃそうだろう?
だって、あの人にとっては、初孫になるんだし
ジャンやゆう子さんは?」

「うちは、もう雅に子供がいるし
普通におめでとうって」

「そっか・・・子供か・・・ますます頑張らなきゃな」

「うん、責任重大だけど
なんか力が湧いてくる感じなんだ」


ヒカルは時計を見て、


「まだこの時間なら、聖良起きてるかな?」

「うん、多分」

「電話してみていい?」

「頼むよ、あいつも喜ぶと思う!
そうだ、ビックリさせるために
オレの携帯からかけてみれば?」

風雅は、スマホでウィーンの自宅に発信して、
そのままヒカルに渡した。


Trururururur


「アロ~?どうしたの?
もう寝ようと思ってたのに?」


案の定、聖良は風雅だと思って話しているようだ。


「アロ~聖良?お母さんになるんだって?
おめでとう!」

「へ?風雅じゃない?誰?」

「なんだよ、友達の声忘れた?」

「え?もしかしてヒカル?なんで?え?」

「ごめん、ごめん、詳細は省くけど、
昨日久し振りにパリに帰って来たんだ」

「やだ~もう、本当びっくりしたじゃない?
今まで何してたのよ
もう全然連絡取れないんだもん・・・」

聖良は涙声になった。

「おいおい泣くなよ
聖良泣かせたら、ボクが風雅に怒られるじゃないか」

「だって~~」


聖良は、半べそ状態。


「改めて、おめでとう!」

「ありがとう~~~
よかった、風雅やっと言えたんだね」

「随分連絡してくれようとしてたんだな、ごめんな
これからはいつでも連絡取れるようにするから」

「本当ね、絶対だからね!
ちょっと風雅に代わって」

「うん」

ヒカルは風雅にスマホを返した。

「聖良?うん、やっと言えたよ、オレもビックリだよ
うん、じゃぁ帰ったらゆっくり話すから、うんじゃぁね」

風雅は、通話を終え、スマホをしまった。

「あいつも、随分心配してたんだよ
龍さんにしょっちゅう電話して
ヒカルは大丈夫なのかって!」

「なんか改めて・・・
本当ボクって、未だに皆に心配かけてるんだな・・・」

「本当だよ(笑)あっ舞は?舞の事知ってる?」

「もちろん、今アメリカじゃ
トップクラスのヴァイオリニストじゃないか」

「舞も、本当にすごいよ
もう今じゃお母さんの名前出す人いないんじゃない?」

「パリに来たばっかりの頃は
比べられるのがいやだ!って言ってたもんな」

「まぁ俺ら3人も、偉大な親の元に生まれて、いろいろ言われ
彼女の気持ちがよくわかるって
仲良くなったところもあるしな」

「今思えば、自分は自分で
頑張るしかないと思うのに、あの頃は
それがわからなかったんだ・・・・
4人ともガキだったって事だ・・・」

「それに結局、俺たち三人は
あれだけ比べられるのが嫌だって言ってた
親と同じ道に進んだしな・・・」

「そうだな・・・ボクだけ、全然違う道だけど・・・」

「・・・・今からでも遅くないんじゃないか?」

「え?・・・・・」

「まぁオレがとやかく言う問題じゃないけど
ヒカルにはヒカルの考えがあるだろうし
でも、今からだって親の背中
追いかけるの遅くないんじゃないか・・・」

「・・・・そんな今更・・・・・・」

「・・・まぁいいや、今夜は飲もうぜ
考えてみれば、オレがお前に会いに
日本に行ったとき以来じゃないか?」

「そうかもな、結婚騒動の時は、バタバタしてて
ゆっくり話す時間もなかったし」

二人は、懐かしい話を交えながら、一晩中飲み明かした。









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