無理しないで・・・





☆☆☆

楓が、小島家に来てから、約1か月。
母親の意識はまだ戻らず
未だICUに入院している。

4月に、中学校に進学した楓。

事故の後から
しばらくヴァイオリンを
弾く事すらしなかった楓。

毎日、学校帰りに
母親の入院する病院に立ち寄り
許される限り、付き添った。
(ICUなので、面会時間は短いが)

叔母の薫は、事故後しばらく
ヴァイオリン教室を休んでいたが
生徒の保護者の希望もあり
なんとか再会。

妹の事が気がかりだったが
毎日忙しくすることで
事故の事を考えないようにしていた。

そんな日々が過ぎてゆき
今年もR☆Sオケ始動の時期がやってきた。








桃ケ丘音大リハーサル室


峰と拓海が、話をしている。

そこへ、薫が楓を連れてやってきた。


「こんにちわ~」

「薫!おっ?楓もよく来たな」


峰は、いつも以上に明るく、声をかけた。


「薫さん、楓ちゃん、こんにちわ」


拓海も、二人に声をかけた。


楓は、声は出なかったが
「こんにちわ」と
口を動かし、挨拶をした。


「龍ちゃん、拓海君
お礼が遅れてごめんね、通夜葬儀の時は
いろいろありがとう。」

「そんなのあたりまえだろう
お前は俺の妹みたいなもんなんだ
気にするなって。」


横で拓海が頷いてる。

楓は、キョロキョロしている。

それに気が付いた拓海が


「楓ちゃん?もしかして、ヒカル探してる?」


楓は素直に頷く。

峰が心配そうに


「あいつ、まだ来てないんだよ
最近忙しそうでな
今日は、久しぶりの休みだって言ってたから
まだ寝てるんだろう?
遅れてくるんじゃないか?」


楓も心配そうな顔をする。

薫も心配そうに


「ヒカル君、よく楓の事、気にかけてくれてるの
でも、ここ数日、何の音沙汰もないから
ちょっと心配してたんだけど・・・」

「まっそのうち来るだろう?
じゃぁそろそろ集まり出したから
話し始めるか?」






結局、この日
ヒカルは姿を見せなかった。

打ち合わせを終え
峰は使途の為、急いで帰った。

拓海は、ヒカルの様子を
見に行ってくれと峰に頼まれた。


拓海は、ひとまずヒカルに電話するも、出ない。
その後も、何度かかけるが
まったく反応なし。


「へんだな・・・まだ寝てるのか?」

「ヒカル君、出ないの?」


薫が、心配して聞く。
隣で、楓も心配そうな顔をしている。


「ちょっとこれから、アパートに行ってみます。」

「そうね、じゃぁ私たちは、帰るね」

「はい、すいません
連絡ついたら、知らせます」

「うん、時間があったらでいいから
楓にLINEしてあげてって
伝えてくれる?」

「了解です、ん?」


楓が拓海の服を引っ張っている。


「楓ちゃん、どうしたの?」


楓は、自分の胸を指さし
一生懸命何かを言っている。

薫は、楓の口元を見て


「楓も行くって言ってるみたい」

「え?ヒカルの所に?」


楓は頷く。


「ん~えっ~と」


拓海は困った顔をして、薫を見る。

薫は

「急に押しかけたら、ヒカル君困るでしょ?
我まま言わないの、今日は、帰ろう?」


楓は、首を振り
行くと言って聞かない。


「まぁいっか
楓ちゃんもヒカルが心配だもんね
薫さんはどうします?」

「困ったわね
今日は午後から、振り替えで
レッスンがあるのよ」

「じゃぁ、ヒカルの所行った後
責任もって、家まで送って行きますよ」


「そう?じゃぁ頼んじゃおうかな?
じゃぁ楓、拓海君やヒカル君に
迷惑かけないのよ」

楓は力強く頷く。


「大丈夫だよね
ヒカルの所在確認次第、連絡しますから」

「ありがとう、頼むわね」


拓海と楓は、薫と別れて
ヒカルの家に車で向かう。

向かう途中にも
拓海はヒカルに電話するが
やはり出ない。


「もしかして、スマホ家に忘れて
どっかいっちゃったのかな?」


ほどなく、ヒカルの住むアパートの到着する。
ヒカルの部屋は、1階の一番奥。
拓海は、呼び鈴を押してみる。
中からは何の反応もない。
今度は、ノックをしてみる。


「やっぱりいないのかな?」


もう一度、ヒカルに電話をかけてみる。
コールはするものの、出ない。

その時、扉に耳を当てていた楓が
部屋の中を指さし、何かを訴えている。


「ん?」


拓海も、同じように扉に耳を当てる。
ガタッ・・・・
かすかだが、何かの音がした。

楓の顔を見る。


「誰かいる?」


楓も頷く。

拓海は、慌てて
ヒカルから預かっていた合鍵で
玄関の鍵を開ける。

そうっと、玄関の扉を開け

恐る恐る小さい声で

「おじゃましま~~~す」


拓海は、ひとまず一人で、中に入る。


「ヒカル?いるのか?」


トイレ、洗面所
キッチンを確認するも人の気配はない。

奥へ進むと、
寝室の扉が、半開きになっていた。

そ~っと扉を開けると、そこには・・・・



うつぶせの状態でベッドから
半分落ちかけているヒカルの姿・・・
腕を伸ばした先には、スマホが落ちている。


「ヒカル!!!」


拓海の叫び声に、楓も慌てて
部屋に飛び込んでくる。

拓海は、ヒカルの体を起こし
一旦ベッドから下す。


「ヒカル?大丈夫か?」


ヒカルのホッペを叩き
額に手を当てる。

うっすら目を開けるヒカル。

「・・・あっ拓海さん・・・なんで?」

それだけ言って、また目を閉じる。


「やべ、すげ~熱だ」


ヒカルのそばに寄ってくる楓。

拓海は、慌てて
110番に電話をし救急車を呼ぶ。


「はい、高熱で倒れてて、歳?
22?23?ともかく20代前半の男です
はい、お願いします」

「楓ちゃん、ヒカル支えてて」


楓は頷き、ヒカルの上半身を抱える。


「え~っと、峰さん、あっ仕事か
薫さん、薫さんに電話してみる」

拓海は、独り言なのか
なんなんなのかぶつぶつ言いながら
薫に電話する。


「もしもし?薫さん?ヒカルが部屋で、倒れてた」
(え?生きてるの?)
「当たり前じゃないですか、ただすごい熱で
今救急車呼んだんですけど」
(楓は?)
「ここにいます」
(急いで、迎えに行く!)
「お願いします」
(・・・あっ)
「え?」
(ヒカル君の家どこだっけ?)
「ズコッ・・・知らないんですね
〇×町1111の××ハイツの105号室です」
(了解~)

その後、救急車が来て
ヒカルが運びだされている途中で
なんとか薫が間に合い
拓海は付き添いで救急車に乗り
その後を、薫が楓を乗せて、車で追いかけた。






ヒカルは、大事には至らなかったが
念のためそのまま入院。
3人は、ひとまず帰宅。

2日後、面会の許可が出たので、拓海に頼まれ
ヒカルの着替えなどを持ち
薫と楓は病院に訪れた。



~ヒカルの入院する一般病棟~



薫は、4人部屋の病室の中の様子を見て


「失礼しま~す、こんにちわ~」


二人で病室の中に入り
他の入院患者に挨拶をする。

ちょうど看護師が
血圧検査と検温にきていた。


「はい、千秋さん、終わりです。」


カーテンを少し、よけながら


「こんにちわ~」

「あっお見舞いの方いらっしゃいましたよ
でも、まだ微熱があるので
長話は、控えてくださいね」

「あっはい、わかりました
ありがとうございました」


薫は、看護師にお辞儀をする。


ヒカルは、まだ青い顔をしていたが
目を開けている。

二人の姿を見て


「薫さん、楓ちゃん」


上半身を起こそうとする。


「あっだめっ」

「え?」

ヒカルは驚く。

「え?」

ふりかえり、薫も驚く。

「え?」

楓が一番驚いている。


「楓ちゃん、今声が・・・」

「そうよね、今の声、楓よね?」


楓は、二人の顔を見つめ恐る恐る

「ひ~ちゃん?あっ」


楓は口に手を当て驚く。


「楓ちゃん・・・」
「楓・・・」

「わたし・・・声が出る・・・?」


ヒカルも薫もウンウン頷いている。


「ひ~ちゃん!」


楓は、ヒカルに飛びつく


「あっ楓、ヒカル君
まだ熱があるんだから」

「大丈夫ですよ」


ヒカルは嬉しそうに楓の頭をなでる。


「何が、大丈夫なんだ?」


ちょうど峰が入って来た。


「あっ龍ちゃん」

「峰さん」

「龍さん」

「おう!ヒカル元気か?・・・
ん?今、誰が龍さんって?」

峰は、楓を見て


「龍~さん」


今度は楓は、峰に飛びつく。

峰は感極まって、楓の頭をなでながら

「そうか、そうか声が出るようになったか・・・
よかった、よかった」


そんな峰を見て薫もつられる


「やだ、龍ちゃん、最近涙もろいわよ・・・」


「いいんだよ、うれし涙は!」


二人は涙を拭きながら


「ははははは、よかった、よかった」


そこへ、半開きだった
カーテンがシャッと開き


「長話は控えてくださいっていいましたよね」


先ほどの看護師が立っていた。


「あっすいません」


薫が、ペロッと舌を出す。


「千秋さん、また熱が上がって
入院長引きますよ」

「あっはい・・・」


ヒカルはシュンとして、布団をかけ直す。


「今来たばっかだけど・・・帰るか、また来るよ」

「スイマセン」


3人は、いそいそと帰って行った。


「楓ちゃん、よかったね・・・」

ヒカルは、そうつぶやき、目を閉じた。







☆☆☆


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