この辺で、少し時間をさかのぼってみましょう。

楓が成田空港を旅立つ数年前のあの日に・・・・・。







☆☆☆


「優勝は、小学6年生12歳!
新田 楓さん おめでとうございます!」

「ありがとうございます」


楓は、ステージの上で
照れながら挨拶をし、お辞儀をした。
手には、ヴァイオリンと弓、花束を持っている。

客席には、楓の両親と5歳下の弟が
笑顔で拍手をしている。


「楓、おめでとう!」

「お姉ちゃん、おめでとう!」

この時、楓は幸せの絶頂にいた・・・。

そして・・・その数時間後・・・・








信号が赤に変わり
ブレーキをゆっくり踏む楓の父。
助手席には母、父の後ろには
疲れたのかぐっすり寝ている弟。

楓は、母の姉(ヴァイオリンの先生)と共に
まだ会場にいる。
3人は、一足先に家路に向かった。


信号が青に変わり
ゆっくり車を走らせる父。
そこに、急ブレーキの音が・・・・
父が音の方を見ると
そこには信号無視をして
交差点に突っ込んできた車のライトが・・・


「危ない!!」








この事故で、父親と弟は、即死。
母親も意識不明の重体。

楓と薫は
急いで病院に駆けつけ、見たのは・・・。
全身管に覆われ、変わり果てた姿で
ベッドに横たわる母(妹)。

そして告げられた父と弟の死。

楓は、ショックのあまり
その場に倒れこむ。
そして目覚めた時には、声を失っていた・・・。







後日、葬儀場で行われた通夜・葬式には
二人の大学の先輩の峰や
数人のオケのメンバーが
駆けつけた。


薫は気丈にも、妹の代わりに喪主代理として
来てくれた人たちの対応に追われている。

そんな薫の姿を見て、峰龍太郎は


「正太郎、あいつ・・・大丈夫なのか?」

「龍さん・・・心配かけてすいません。
ボクも時々声かけるんですけど・・・
大丈夫だってしか・・・」

「そうでも言わなきゃ
やってられねぇんだろうよ・・・
楓ちゃんは?」


正太郎は首を横に振り


「・・・・あれから一言も・・・
本人も話そうとはするんですけど・・・」

「やっぱり精神的なもんか・・・」

「そうみたいです・・・」


そこに遅れて、学校終わりで
駆けつけたヒカルが来る。


「正太郎さん、すいません、遅くなりました」


「いや、ごめんね
忙しいんだろうにヒカル君まで
迷惑かけちゃって・・・」

「そんなの気にしないでください
あっ先にご焼香させてください」

「よろしくおねがいします」


なんだかんだと正太郎も
憔悴しきっている。


「龍さん、すいません
ボクも薫さんを手伝ってきます」

「おう、行ってこい」


そこへ、焼香済ませたヒカルが戻ってくる。


「二人とも、疲れ切ってますね・・・」

「ああ・・妹の旦那には肉親がいなかったらしいし
薫も妹家族だけみたいだからな・・・・」

「そうなんですか・・・楓ちゃんは?」

「奥で休ませてるって・・・
ショックが大きいらしくてな・・・」

「ボク、様子見てきてもいいですか?」

「ああ、そうだな、行ってやってくれ・・・
あっ正太郎には声かけてから行けよ」

「はい」


ヒカルは足早に、正太郎の元へ向かう。








葬儀場のスタッフに
楓の休んでる部屋に案内されたヒカル。


「こちらです」

「ありがとうございます」


コンコン

「楓ちゃん?ヒカルだけど・・・入るね」


部屋に入ると、楓は簡易ベッドで
こちらに背を向けて横になっている。

何も言わずヒカルは
ベッドのそばに椅子を持ってきて座る。

そっと起き上がった楓は泣きはらした目で
ヒカルを見つめた。
そして、声にならない声で泣きながら
ヒカルに抱きついた。

ヒカルは、何言わず楓を抱きしめた。





ひとしきり泣いた楓は、落ち着いたのか
ヒカルから離れた。


「大丈夫?」


ヒカルはそっと話しかける。

楓は、静かに頷く。

自分のハンカチで、楓の涙を拭くヒカル。

そして


「楓ちゃん、今はお父さんと遼君の為に
一杯泣いていいんだよ
一杯泣いて、二人を天国へ見送ろう・・・」


楓は黙って聞いている。


「でもね、二人を送った後、今度は
まだ病院でがんばっているお母さんの為に
少しづつでいい
毎日ほんの少しづつでいいから
笑顔を作るんだ、それで祈るんだ

一日も早くお母さんが
元気になりますようにって・・・・

もちろん泣きたい時は
我慢しなくてもいいんだよ

でも、次の日は、また笑顔を作るんだ・・・
それを繰り返していけば
きっとお母さんが目覚める頃には
自然に笑えるようになる

そうすれば、お母さんもきっとまた
楓ちゃんの為に笑ってくれる・・・」


楓は目に涙を溜めて
またヒカルに抱きつき
静かに泣き出した。





しばらくして
遅れて来た清良が部屋に来る。


コンコン


「はい」

「ヒカル君?」


ヒカルは、口に指をあて


「しぃ~」

「あっごめん」

「あれ?清良さん?来てたんですか?」

「うん、さっきね、楓ちゃんどう?」

「散々泣いて、泣き疲れて寝ちゃいました」

「そう、そうよね・・・

あっ、そうだ今日二人とも
ここに泊まるって言うから
楓ちゃん、うちで預かることになったのよ」

「そうなんですか、わかりました。」

「龍が、今裏に車回してるから
そうしたら悪いけど
楓ちゃん連れてきてもらえる?」

「いいですよ」

「よろしく、じゃぁ私
二人にもう一回挨拶してくるから」

「はい」






ヒカルは、楓を起こし裏口に向かう。

清良も戻り、4人を乗せて葬儀場を出発。

途中、ヒカルの住むアパートの前で
ヒカルが降りようとすると
楓が、服の袖をつかんで、引き留める。

「楓ちゃん・・・・」

清良が、ヒカルに聞く。

「・・・・ヒカル君、明日の葬儀も行くのよね?」

「はい、そのつもりです」

「じゃぁ、お前も、うちにこい
その方が、楓も安心だろ?なっ」

峰は、楓の顔を見る。

楓は、静かに頷く。

「・・・・わかりました
じゃぁちょっと待っててもらえます?
着替えとか取ってくるんで」

「おう、急げよ」

ヒカルはしばらくして、荷物を抱えて
戻ってきた。

「お待たせしました。」

「行くぞ」

峰は車を走らせ自宅に向かった。

その夜は、ヒカルが楓を寝かしつけ
峰たちと、少し飲みながら
夜を過ごした。






翌日の葬儀には
相変わらず目を赤くしてはいたが
楓も出席して
しっかり弟の遺影を抱きしめていた。

ヒカルは、そんな楓をあたたかく見守った。

そして、この日から楓は
正太郎・薫と共に暮らすことになった。







☆☆☆


 <イメージ曲>

「Believe」
ByAI

「ビリーブ」
ByGreeeen


まず楓ちゃんの悲しい過去についてです。
まぁすでに、ヒカルと楓は出会っているのですが
この頃は、まだ楓ちゃんが12歳という事もあり
お兄ちゃん的存在にすぎないヒカル(23歳)です。

ひとまず、前年に真澄ちゃんの所から独立し
一人暮らしを始めたヒカル。
(日本に来て5年目に入る頃ですが
まだ親のすねかじりです)

専門学校に行きながら
音楽関係のバイトもしてます。


ええ、10歳以上の年の差です。
でも、まだそんな関係にはならないので
今のところは問題ないと思います(笑)


追記

ちょっと話の筋は変えてませんが
ちょっとした行動やセリフを変えました。
まぁチープさは、相変わらずですが・・・


では、また・・・。