海翔君のお兄さんの話。

51.海翔の物語1の続きです。




☆☆☆


R☆Sオケのリハ終りに
峰に呼びとめられる拓海と海翔。


「お前ら、なんかあったのか?」

「え?」


峰の隣のヒカルを見て


「あぁさっきの?」

「大丈夫ですよ
喧嘩してたわけじゃないですから」

「そうなのか?他の奴らからも
深刻そうだって聞いたぞ?」

「いや・・・深刻というか・・・
よくわかんないっていうか・・」

「よくわかんない?」

「まぁひとまず、今は公演の事で
俺らも一杯一杯なんで
またこの話は
本番終わってからでいいですか?」

「まぁお前らが、そういうなら・・・
でも、なんかあるんなら
俺じゃなくても
誰か大人に相談するんだぞ、お前らだけで
何とかしようと思わずにな」

「はい・・・ありがとうございます」


二人は、峰に丁寧にお辞儀して
帰って行った。


「大丈夫かな・・・あの二人・・」

「わからん・・・ひとまず
俺らも公演に集中するぞ」

「・・・・はい」


ヒカルは、二人の事が気にはなったが
ひとまず、見守ることにした。







本番前日、桃ケ丘音大でゲネプロ




R☆Sオケ本番当日

観客席の2階には
あの弁護士の小泉がいた。
その隣には、車いすに乗った
ちょとやつれた男性がいる。

二人には、何やら話をしている。







R☆Sオケ定期公演終了








公演終了後、海翔は小泉弁護士に連絡し
後日拓海を伴い、小泉の事務所に出向いた。




~小泉の法律事務所~




「改めて、今回、こういう場を
設けて頂き、感謝します」


小泉は、丁寧に挨拶をする。
二人も、緊張しながら、頭を下げる。


「ええと、まず今回の依頼人についてですが
お名前を、坂口智也さんと言いまして
とあるIT企業の取締役をしていた方です。」


二人は、黙って聞いている。


「で、その坂口さんなんですが
先日余命宣告をされまして」

「余命宣告?」

「はい、で、ご本人も
もう覚悟を決められまして
身辺整理を私共に、依頼されました。」

「はぁ・・・」

「もちろん会社の方に関しましては
会社関係の方々に引き継ぎまして
もうすでに取締役も
退いてらっしゃいます。」


「で、ここからが本題なのですが・・・」


二人は、まったく話が見えず
何も言葉を発する事が
出来ないでいる。

「坂口さんの個人資産についてです。

坂口さんには
現在、見寄りとなる方がまったくおらず

個人資産の大体部分に関しては
あるNPO団体に寄付するという形で

話しはまとまっているのですが
残りの一部、微々たる金額なんですが

鈴井海翔様に、お譲りしたいという事で
今回、お話をしていると言う訳です」

海翔は、困惑して

「え?ちょっと待ってください
そもそも何でその人が
俺、いや僕に、遺産を残すって
言ってるんですか?
え~っと坂口さんでしたっけ?
僕は、そんな方知りませんが・・・」

「ああそうですね、失礼しました。
まずそちらを
お話しなければなりませんでした」


と、おもむろに、小泉は
カバンから資料をいくつか出す。

その中に新聞の切り抜きが
スクラップされているものがあった。

海翔は、その記事をみて
途端に顔が険しくなる。

拓海も、何気に見るも
太字で書かれた
「人を助け、車に引かれ死亡」
しか読めなかった。


「まさか・・・・」

「はい・・・・」


拓海は、二人のやりとりを
ただ見つめるしか出来なかった。


「ちょっと待ってください
何で今頃・・・あっ」


「そうです、その理由が最初に話した
坂口さんの余命宣告になるのです。」

「・・・・それにしたって・・・・
だったらどうして・・・今まで・・」

「ん~それについては
坂口さんも、とても後悔されております。」


海翔は怒りのあまり
テーブルをバンッと叩き、立ち上がる。


「だからって・・・」

「海翔、落ち着け」


拓海が海翔をなだめる。

海翔は、渋々座り、黙り込む。


拓海が、海翔の代わりに質問する。

「すいません、僕から
一つお聞きしてもいいですか?」


「あっはいどうぞ」

「いや、何で
海翔だったんだろう?と思いまして」

「というと・・・?」

「いや普通なら、ご両親に話をするのが
筋なんじゃないのかな?と思いまして」

「ああなるほど・・・そうですね
正直、私もその辺は
坂口さんにお聞きしたのですが
ただ単に合わせる顔がないと
言っておられました。」


拓海もさすがに呆れて


「はぁ?だからって・・・
人一人亡くなってるんですよ
結局は、責められたくないから
金で解決しようって事ですか?」

「まぁ、そうとられても
致し方ないとは、私も思います」

「なんだよそれ?金出せば
俺らが許すとでも思ってるのかよ」


ふたたび、怒りで声を荒げる海翔。

小泉は、一呼吸おいて

「いえ、坂口さんは
許されようと思われていないようです。

当時、かなり追い詰められていたとはいえ
自分の浅はかな行動のせいで
一人の前途有望な青年の未来と
その家族の幸せな日々を奪った事は
事実なんだから・・・と。」

「じゃぁなんで・・・」


海翔の目には、悔しくて涙が溢れていた。


「まぁ贖罪のつもりなんだと思います・・・」

「そんなの自己満足だ!
金なんかいらないから、兄貴と
父さんと母さんの前で、謝れ!」


海翔は、怒りのやり場を
どこに向けていいか、わからない。


「海翔・・・・」


拓海も、どうしていいかわからない。


「・・・・実は、一番初め
海翔君の大学にお邪魔した頃は
たしかにご両親には
顔向けできないと言っておられたんですが
私を通じて、数回、海翔君とのやり取り
海翔君の人となりなど感じ
で、この間のオケの公演に
お邪魔した際・・・」


拓海がビックリして


「え?公演見たんですか?」

「はい、以前はクラシックは
まったくわからないとおしゃってたんですが
一度、海翔君の演奏姿を見てみたいと・・・」


二人は、黙り込んだまま。


「海翔君や若い人たちの
生き生きとした姿を見て
何か感じられたんでしょうね・・・・

やはり、このまま
ご両親に会わないのも、卑怯だ
結局、あの時、逃げた自分と
同じになってしまう・・・と

坂口さんは、ご両親にお会いして
お兄さんの墓前にも
手を合わせ、自らの口で
謝罪をしたいと懇願されました。」

「じゃぁ早く、そうしてもらってください
時間がないんでしょ?」


海翔は、責めるように訴えた。


「はい、そのつもりで
こちらも動いておりました・・・
実は、今更ですが、もうご両親には
今回の事、今日海翔君に
すべてを伝える旨を、お話してあります。」

「はぁ?!なんだよ、それ?
だったら最初から・・・」


海翔は怒りを通り越して呆れる。


「お怒りはごもっともです
しかし、ご両親には、すべてを聞いていただき
ご理解をしてもらった上で
最後は海翔君の判断に任すと・・・」

「俺の???」

「はい、ご両親も
お兄さんがお亡くなりになられて
かなりのご心痛ではありましたが
自分たちには守らなきゃ
いけないものがある
ご自分たちで作り上げた歯科医院と
残されたもう一人の息子さんの
海翔さんを・・・」

「俺?」

「本来、歯科医院自体は
そんなに強く、お子様たちに
継いでもらおうとは
思ってはいなかったようです。」

「え?」

「まぁ継いでもらえたら
いいな位だったそうです。」

「いいな位?」

「でも、そこへお兄さんが
自分がこの歯科医院を継いで
ご両親の築きあげた
この医院を守っていくと
仰られたそうです」

「兄貴が・・・?」

「そして、言葉通り
一生懸命、勉強されて、見事国立の歯科大に
合格されたました・・・。」

「・・・・・」

「うれしかったそうですよ
本当に・・・そして、お兄さん
こうも言っておられたようです。
自分が、この医院を守っていくから
海翔君には好きな事を
自由にやらせて欲しいと・・・・」


海翔は、もう涙が止まらなかった。


「なので、お兄さんが亡くなられた後
本当は、すごく悩まれたそうです
海翔君には、このまま自由に
好きな道を歩ませるか
それとも、お兄さんの意思を
継がせるべきか・・・」


海翔は、声を詰まらせながら


「おっおれが・・・
学校・・いかなくなったから?・・・」

「そうなんです・・・お兄さんの言う通り
このまま自由にさせていたら
この子は、どうなるのか?
ここは、心を鬼にするしかないと・・・」


海翔は、もう耐えられず
その場に泣き崩れた・・・。








いつもの居酒屋。

拓海と海翔の前には
峰と真澄とヒカルがいる。

峰と真澄は、海翔の話を聞いて
号泣している。


「峰さん、真澄ちゃん、大丈夫?」


拓海が心配する。

峰は、涙を流しながらも


「なんだ?お前の兄貴ってのは
自殺するために道路に
飛び出した奴を
身を挺して助け
自分が死んじまったと・・」

「はい・・・」

「で、そいつは、怖くなって
その場は逃げたが
今になって自分の命が
あとわずかと知り
謝りたくて、名乗り出たって事か・・」

「まぁそういう事です。」


「でよ、結局どうしたんだ、お前は?」


鼻をすすりながら、峰が聞く。

「結局、もうその話をしている時は
その坂口さんていう人は
寝たっきりの状態で
お墓参りもうちに来ることも
出来る状態じゃなくて・・・」


真澄ちゃんもハンカチで
涙を拭きながら


「え?そうなの?」

「で、しかたがないから
両親と3人で、その人の病室に行きました。」

「拓海さんも行ったの?」


ヒカルは、さりげなく聞いた。


「いあや、さすがに、そこは家族の問題だし
俺は遠慮させてもらったよ。」

「で、どうしたんだ?」


顔をグチャグチャに
しながら峰が聞いた。

「いや~なんていうか
その人見たら
もう何も言えなくなちゃった。」


海翔は、ケロッとして言う。


「言えなくなっちゃった?」


ヒカルは、不思議そうに聞く。


「だって・・・・もう、本当に弱々しくて・・・・
かろうじて意識はあるものの
話しもろくにできる状態じゃなかったんだ・・・」

「・・・・・」


皆、無言になる。


「親父もお袋も、言いたい事は
いっぱいあったと思う
でも、もうこの人も十分
苦しんだんだろうって・・・

だから、許してあげようって
自分たちがいつまでも
憎んでたって、兄貴は戻らない
この人も、もうすぐ逝ってしまうだろう
だったら、最後位この人の
心の重荷を取り除いてあげようって」


「すばらしい、ご両親ね・・・」


真澄は、また涙を流す。


海翔は、しばらく無言になる。

しばらくして、ちょっと涙声の海翔が


「・・・・最後に、俺が・・・・
その人のそばに行って
もういいです、許します。

あっちにいったら、兄貴に直接
謝ってください。
で、伝言頼みます、兄貴の代わり
務まるかわかんないけど
頑張るからって・・・」


拓海が恐る恐る聞く。


「で、その人は・・・?」

「涙流して何度も何度も頷いてた・・・・。
で、何回か頷いた後、意識がなくなって
昏睡状態に・・・

俺たちは、その場で
帰ったけど、その日の夜遅く
息を引き取ったって・・・」


峰と真澄は、再び大号泣。

ヒカルと拓海は
鼻をすすりながら、黙ってる。

「で、まぁそれが、先週の話で
昨日葬式に参列してきました。」


拓海が、思い出したように


「そうだ、結局、遺産は、どうしたんだ?」


真澄も、涙を拭きながら


「そうよ、そうよ
まさか、つっぱねたまま?」

「いや、結局、坂口さんの
気持ちなんだからって、一部だけ・・・・」

「一部だけ?」

「うん、もともと相続税の問題があるからって
そんなに大金じゃないっていってたんだけど・・・
こんなにあったから・・・」


と海翔は、指を一本立てた。


「ん?100万?」


峰がボケる。


「1000万です。」


4人とも、ビックリする。


「え~1000万?すげ~十分大金じゃん」

「だから、全部はもらいませんでした。」

「え~もったいなっ」

と峰が言うと、真澄が峰の背中叩いて

「痛っ」

「何てこと言うの、龍ちゃん」


「じゃぁどうしたんですか?」


ヒカルが聞く。


「学費だけ。これから、歯科医師になる為の
勉強するのに必要な分だけもらった。

今まで、兄貴の代わりだって
ずっと思ってたけど
今回の事で、両親の気持ちも、わかったし
これからは、自分の為に頑張ることにした。」


気付けば
海翔の顔は、晴れ晴れとしている。


「そうだな、兄貴の分も頑張って
日本一の歯医者さんになれ!」


「いや、日本一は・・・・ちょっと・・・?」

「わははははは」


海翔にも笑顔が戻り、皆で心の底から
笑いあったのである。






☆☆☆



すごく、長くなってしまいました(笑)

話しの構想は、結構前に出来てたんですが
最初は、弁護士が探偵
お兄さんが、亡くなった事故の場所は
道路じゃなくて、ホームから線路に転落でした。


でも、遺産相続の問題を探偵に
委託するのも変かな?
と思い、弁護士に変えました。

そうすると、今度は法律の問題が・・・
自殺しようとして、助けてくれた人が
死んだ場合、罪になるのか?
そうしたら、時効は?

弁護士としては、どうなんだ?

と思いまして、結局、交通事故にしました。

そうなると、実際お兄さんをはねた人は?
とかいう話になりますが
それは、もう当時解決済という事で
今回は触れていません。


結局、最後は、妄想話ですので
多少(多大?)の矛盾は
心の中でツッコんでおいてください(笑)


(弁護士の名前は、その時テレビに出てた
俳優さんの名前を足したものです。
さぁ誰でしょう?(笑))