また日本です。

峰に呼び出された若者たち。



☆☆☆



とある居酒屋。


拓海と海翔が、入ってくる。

峰が気が付き


「よう、ここだここ」


「久しぶりです。どうしたんですか?」


峰が、興奮して

「いや~おぼえてるか
お前ら?パリから来たヒカル。
昨日さ、こいつの誕生日でさ」


「へ~」


「ようやく20歳になったからよ
晴れて居酒屋デビューだ(笑)」

「はぁ」

「すいません」


ヒカルは、申し訳なさそうに、謝る。


「いや、大丈夫だけど・・・
どうせ、峰さん一人で
盛り上がってるんだろ?」


二人は、椅子に座る。
飲み物を注文して
改めて
峰の音頭で、乾杯をする。


「じゃぁ改めて、ヒカル君
20歳の誕生日おめでとう!!」

「おめでとう」

「すいません、ありがとうございます」

恐縮しながら
ヒカルは少しビールを飲む。

「苦っ」

海翔は、一口呑んだ後

「あははは、ビールは
まだ早いんじゃないのか?」


ヒカルは、口の周りの泡を拭きながら


「ワインなら、飲めるんですけど・・・」


峰は、一杯目を飲み干して


「そうなのか?ここワインあるかな?すいません」


峰は、店員を呼んで、ワインを頼む。





「へ~フランスじゃ、16歳から飲めるんだ」

「はい、父が好きで、よく付き合わされました」

「千秋は、酒強いからな」


海翔は一瞬、え?と思い


「?千秋?」

「あぁこいつの親父と、俺、同級生で
オケの練習や公演の後の
打ち上げとかで、よく飲み入ったな~」

「父が、よく言ってましたよ
オケの連中は、酒が弱いって(笑)」


海翔が


「ちょっと待って
峰さん、ヒカル君のお父さんって?」


「あれ?あっそうか
去年は、お前来なかったんだっけ?
ヒカルの親父は
うちのオケ作った千秋だ」


「千秋って、あの指揮者の千秋真一?
え?拓海は、知ってたのか?」


「うん・・・去年初めて会った時にな
まぁだって、あの時は
まだ誰にも言うなって・・・」



海翔は、開いた口がふさがらなかった。








「じゃぁ怪我して、ヴァイオリン
弾けなくなって、プロ断念か・・」


海翔が、遠慮なくずけずけという。


「あぁはい・・・」


ヒカルは、苦笑い。


「そりゃぁ落ち込むよな~
小さい頃からやってたんだろ?」


「おいっ海翔、少しは」


拓海が海翔を止めようとするも


「あっ大丈夫です、
もう吹っ切れてはいますから」


ヒカルは、笑顔で答える。

それを見た峰は


「そうだよ、だからウジウジしてる暇ないように
仕事させてんだ俺は」


峰は、かなり酔っぱらっている。


「はい、かなり助けられました
それに真澄ちゃんも・・・」


「真澄ちゃん?」


「はい、実は真澄ちゃんが
日本での後継人で
今も一緒に住んでるんです。」


「へっ?へぇ~」


「で、真澄ちゃんもボクの事心配してくれて
あの佐藤さんに会わせてくれたんです」


「佐藤さん?」


「指揮者の佐藤太一さんです。」


「あぁ片腕の・・・」


「世の中には、ハンディキャップがあっても
頑張ってる人は、いくらでもいるんだ
ヴァイオリン弾けないくらいで、どうした?って」


「説得力はあるわな・・・・」


「それから、少しづつですけど
前向きに考えられるようになりました」


「そっか・・・えらいな~ヒカル君は」


「え?」


「俺もさ、これでも、小さい頃は
プロのヴァイオリニストになりたくてね

でも、まぁいわいる家庭の事情?
ってやつでね・・・今は趣味として・・・
でも、楽器が弾けるだけでも幸せなのかな・・・」


「あっやっぱり?」


「え?」


「いや~あのオケ、プロの人何人もいるけど
その人たちにひけをとらないというか・・・」


「お世辞言ったって、何にもでないぞ」


「いや本当に、すごい耳に残るんですよ
拓海さんの音って・・・懐かしいような・・・・
なんていうか・・・うまく言えないですけど・・・

あっ偉そうなこと言ってすいません」


ヒカルは、また恐縮する。


「さすが、のだめの息子だな
こいつ耳も親譲りで、すごいんだぞ」


今度は、二人とも固まる。


「ん?ちょっと、峰さん、またすごい事
さらっといいませんでした?」


「へ?」


峰は、キョトンとしている

海翔が


「今、のだめの息子って???」


拓海も


「のだめって、あのピアニストの?
のだめって、子供いたの?」



海翔はビックリして



「え?これは、拓海も知らなかったのか?」


拓海は首を振って


「ああ初耳だ。って事は
千秋真一とのだめって、夫婦?」


「はぁ?ヒカルの事は、ともかく
二人が結婚してることも
知らなかったのか?」


拓海があわてて


「知らないですよ
だってのだめって言ったら
なんかミステリアスって言うか」


峰が不思議そうに


「ミステリアス?」


拓海は興奮して


「だって年齢も私生活も
なにもかも未公表だし
インタビューとかも
あんまり受けないし、っていうか
あの人、いったい何歳?」


峰とヒカルは、お互いを見合い苦笑いして
どうしようか迷ってる・・・。


海翔も


「そもそも、最近の映像がないんですよね?
音源のみって言うか・・・」


「うんうん、なんか伝説化してるっていうか
そもそも存在してることさえ
怪しいっていうか・・」


峰は呆れて


「なんだ、それ?」


ヒカルは、すごい不思議そうに


「伝説って・・・なんか不思議ですね
ボクは家族だから
そばに父も母もいて
毎日、もちろん会話もするし
一緒に演奏したりもするけど・・・

遠い異国の地の同じ世代の
人たちにとっては
存在すら、疑われてるなんて・・・
なんか笑っちゃう」


海翔は申し訳なさそうに


「悪い、でも、本当にそうなんだよな・・・
正直言って」


ヒカルは笑いながら


「いや、いいんです
実際不思議な人ですから」


峰が、得意そうに


「あははは、しょうがねぇな
ヒカル言ってもいいのか?」


ヒカルも、うんうん頷きながら


「まぁ大丈夫じゃないですか
ここだけの話って事で(笑)」


峰が、どや顔で


「はっきりいって、あいつは・・・
そうだな・・・一言で言うと・・・
いや一言では言い表せないくらい
変わった奴だ」


となりで、ヒカルも笑いを堪えてる。


「息子の前で言うのもなんだが
あいつは変態だ」


「へ?変態?」


拓海と海翔は、ビックリして目を見開く。
ヒカルは、堪えきれずに笑いだす。


「たしかに、ピアノの腕に関しては
上手いの通り越して
次元が違う、耳がいいんだ
1回聴いただけで、さらっと弾いちまう。

そのくせ、楽譜読むのが苦手で
学生の頃は、千秋に弾かせて
それを聴いて覚えてたって話だ。」


ヒカルは、すかさず


「あぁ峰さん
母の名誉のためにもそこ訂正。
さすがにパリの学校行ってからは
楽譜も読めるようになったし
初見も出来るようになりましたよ」


峰は呆れ顔で


「まぁそうだろうな、そうじゃなきゃ
いまピアノ弾いてねぇだろ」


海翔も呆れ顔


「そんなレベルで、パリの学校に留学?」


峰は、遠い記憶を頼りに


「そうなんだよな、いくらピアノはすごくても
他がな~よく試験受かったと思うよ、俺は」


拓海が感心して


「それだけ、何か持ってたって事だね
のだめって人は・・・」


峰も感心して


「で、向こうじゃコンクールにも出ずに
いきなり、シュトレーゼマンの指揮で
ヨーロッパデビューだもんな」


拓海は、思いついたように


「あっそれなら、見たことありますよ
でも、20年以上も前の動画なんで
画像が荒くて、顔はよくわからなかった・・・
でも、すごい独創的で
すごい演奏で、印象に残ってます。」


拓海も頷き


「俺も」


拓海が何かを思い出したように


「シュトレーゼマンと言えば
10年くらい前に
なんでかわかりませんでしたけど
日本で、シュトレーゼマンの
追悼コンサートしませんでした?

あれ?その時、千秋真一とのだめで
コンチェルトやったような記憶が・・・」


峰は、さりげなく


「ああ、うちのオケでな」


拓海はビックリして


「あれ、ライジングスターでしたっけ?」


峰は、頷きながら


「ああ、日本で追悼コンサートは
マエストロの希望だったって聞いてる」

28.番外編~マエストロよ、永遠に~


ヒカルが、懐かしみながら


「そうですね、ミル・・いやマエストロは
大の親日家でしたし
生前から、なにかと日本に来たがってました」


峰は、昔を思い出し、眉間にしわを寄せ


「?ヒカル、それは
別の意味でだろ?あのエロ巨匠め」


ヒカルは、その部分は知らないようで


「え?そうなんですか?」


「まぁともかくだ、日本にいた頃から
千秋に寄生してたのだめは」


海翔が不思議そうに


「寄生?」


峰は、慌てて言い直して


「あっいや、一緒にいた二人はだ
一緒にパリに渡り、向こうで一生懸命
頑張って、二人とも大成功して
今があるって感じかな」


どや顔の峰。

ヒカルは大笑いして


「峰さん、無理やり美談でまとめましたね」


峰は、ヒカルの顔を見て


「だって、あいつらの名誉のためにも
これでまとめた方が・・」

海翔は

「え?ウソなんですか?」


ヒカルは慌てて


「いや、決して嘘ではありませんが
かなりカットした部分が・・・
まぁそれが、のだめのすべてを
未公表にしている訳にもなるんですが・・・あははは」


拓海は変に納得して


「あっそうなんだ
そうとう変わった人なんだね、君のお母さん」

「あははは、そうなんです、はい」


ヒカルは、最後に苦笑い・・・。


「でも、なんか楽しそうな家族だね
飽きないでしょ?」


「え?あっはい、楽しかったですよ
毎日、あの二人の漫才?ボケとツッコミ?
関西のエスプリ?日本の大学の先生に
教わったって母は言ってましたけど・・」


峰は、首を傾げ


「関西?ハリセンか・・・?」


海翔は不思議そうに


「ボケとツッコミ?」


ヒカルは、楽しそうに


「母が、いっつも何かしでかすと
すかさず父がツッコんで
でも、そんな父も怒ってるのかと思えば
もうしょうがないな~って
楽しそうにしてるんです・・・

子供のボクたちから見ると
何やってるんだか、この親!って
感じでしたけどね」


峰も楽しそうに


「かぁ~あいつら
未だにそんな事してるのか?
相変わらずだな~
でも、目に浮かぶよ、懐かしいな・・・」


拓海と海翔は、たまらず大笑い


「本当、楽しそうだね、見てみたいよ、君のご両親」


「日本に来る予定ないの?」

「あははは、今のところは・・・」

「でもよ、お前らが
こんなにあいつらの事知らなかった
って、俺らにしたら、すげ~不思議・・・」

「だって、30年位違うんですよ
その人の事知ってはいても
そんな細かい事までは・・・それこそ
ジェネレーション・ギャップですって」

「ジェネレーション・ギャップねぇ・・・
そんなもんかね~」

「でも、今日は、興味深い話が沢山聞けて
楽しかったです」

「ヒカル君、また一緒に飲もうよ
今度は峰さん抜きで」

「なんだと~まぁしょうがないか
ジェネレーション・ギャップって奴だな」


皆、大笑いして、今日の宴はお開き・・・・・


☆☆☆


ヒカル君の20歳のお祝いのはずが
真一とのだめの
夫婦生活についてになってしまった。

しかも、ミステリアスな、のだめの生態・・・・(笑)


エリーゼの戦略で、バカがばれないように
未だに、すべてが未公表なのである。