日本に来たばかりのヒカル君の話。





☆☆☆

日本にきたばかりの頃
ヒカルは、ほとんど誰とも口を
利かなかった。

心機一転
ヴァイオリンを忘れるために
日本にやって来たものの
やはりパリに
居た時と何もかわらない・・・・

たしかに、ここには
パリでの自分の事を知る人は
ほとんどいない・・・・

でも、ポッカリ空いた心の穴を
ふさぐ手立ては
ここ日本にもないように感じていた・・・・。

あの時までは・・・・・







日本に来た翌月から
日本語の語学学校に通い始めたヒカル。

自分から行くといったものの
中々身が入らなく
毎日、なんとなく通っている状態だった。

そんなある日
そんなヒカルを見るに見かねた真澄は


「もう、私我慢できない!!」

「え?」

ヒカルは、突然
真澄が声を荒げたので、ビックリする。

「ヒカル君、あなた
私のマネージャー兼助手をやりなさい!!」

「はぁ?」

「だって、毎日毎日
ポケ~っと暇そうにしてるじゃない
そんなに、暇でどうしようもないなら
働きなさい!!」

「別に暇そうにしてるわけじゃ・・・・」

「どうでもいいわよ
そんな事、早く支度して」

「え?今から?」

「そうよ、当たり前じゃない、今日は
新都フィルの次回公演のリハがあるから、早く!」

「わかったよ」

有無を言わせず、真澄は
強引にヒカルを連れ出した。






新都フィルリハ会場

「おはよう~」

「お?真澄ちゃん
今日は、可愛い子連れてるじゃない?
新しい彼氏?」

「そうよ!っていいたいけど、甥っ子よ」

「え?」

「いいのよ、説明するの面倒だから
ヒカル君も話し合わせなさい」

「うん・・・わかった」

その後も、いろんな人に、突っ込まれながら
ホールの中に入る。


客席の方に連れて行かれたヒカルは
思わぬ人物に紹介される。


「こんにちは、佐藤さん
この子が、私の助手の千秋光君です」

「君が、千秋君か、よろしく佐藤だ」


佐藤太一 現在、新都フィル首席指揮者他を
務めているマエストロ。

佐藤は、ヒカルの父、千秋真一より何歳か年上で
パリの管弦楽団や、ウィーンフィルでも
指揮をしていたことあるので
真一の事もよく知っている人物である。

実力もさることながら、なにより
佐藤自身「片腕の指揮者」として
有名なのでヒカルも、よく知っていた。


そんな人が、突然目の前に現れ、ヒカルは


「はじめまして、千秋光です」


というのが、精一杯だった。


「少し、話しをしようか・・・そこ座って」

「あっはい・・・」

ヒカルは言われるがまま、佐藤の隣に座る。

おもむろに、佐藤は言った。


「君にとって、音楽とはなんだ?」

「え?」

「君は何しに日本に来たんだい?」

「はい?」

「たかだか、ヴァイオリンが
弾けなくなっただけで
なぜ、そんなに落ち込むことがある?」

「・・・・・」

「世の中には、耳や目にハンデをもっていても
一生懸命、音楽をやっている者もいる・・・」

「・・・・そうですけど・・・」

「もう一度聞く・・・
君にとって、音楽とはなんだ?」

「・・・・・」

ヒカルは、答えることが出来なかった。

「目の前にあるチャンスは、絶対逃すな
人間、やる気があれば、
どんな事でも、乗り越えられるもんさ」

佐藤は、それだけ言って
ヒカルの肩をポンっと叩き
舞台に向かった。


ヒカルは、ただただその後姿を
見つめる事しか出来なかった。

しばらく、その場から動かず、ただ下を向き
考え込むヒカル。

そして・・・・

「ボクにとっての音楽・・・・・か」


ヒカルは、そうつぶやき、顔を上げた。

その顔は、なぜか晴れ晴れとした
明るい笑顔だった・・・。







☆☆☆


すいません、偉そうな感じで。
毎度言いますが、妄想なのでご勘弁を。

耳が不自由な中、作曲を続けた
ベートーヴェンやスメタナ(モルダウ作曲者)
ピアニストのフジ子・ヘミングも難聴
盲目のピアニストもいますね、

要は、ハンディ・キャップを持ちながらも
がんばっている音楽家は多数います。

音楽家じゃなくても
すべての仕事においても
そう言う人は沢山います。

なので、ヒカル君も
いつまでもウジウジしてないで
早く立ち直っていただきたくて
勝手に「片腕の指揮者」という人を
作り上げました。
(実際、いろいろ調べましたが
現実には、いないようです)

その人に、説教をしていただき
吹っ切ってもらおうと思いました。

そうしないと
話しが前に進まないので。

決して、そういう人たちを
侮辱したり好奇の目に
さらすために、登場させたわけではない事を
ご了承ください。



というわけで
この後、第2章のAfterStoryで
描いた聖良とヒカルの回に、繋がります。
(こちらを、後に書いたので
ちょっと無理があるところがありますが
まぁ、その辺は、ご愛嬌という事で)

ではでは

See you~