いろいろ複雑な事情がありそうな若者二人。

まずは、海翔君の物語から、紐解いていきますか・・・。




☆☆☆


ある日のS大の「クラシック研究会」の部室。

拓海と海翔が、奥の部屋で談笑している。

そこへ、ひとりの男子学生がやってくる。



「海翔、お客さんだぞ」

「客?女の子?」

「いや、中年のおっさん」

「なんだ、おっさんか・・・」


海翔は、面倒くさそうに
部室の外に出る。

そこには、初めて見る男性がいた。

海翔は、警戒しながら


「あの~鈴井ですけど・・・・」

「あっすいません、忙しいのに突然
お邪魔しちゃって
私、こう言うものです」


その男性は、名刺を差し出した。


「小泉法律事務所の所長兼弁護士の
小泉圭吾と申します」

「はぁ・・・」

「実は・・・お兄さんの事なんですけど・・・」


海翔の表情が硬くなる。


「兄貴の??兄貴なら
もうずいぶん前に死にましたけど」


海翔は、冷たく言い放つ。


「あぁそれは、存じてます。
そのお兄さんが亡くなった事故の件で・・」

「何なんですか、今更・・・
しかも、なんで俺の所に??」

「いや、海翔さんにも関係あることなんで」

「だからって・・・」


そこへ、拓海が心配して、見に来る


「海翔?なんかあったのか?」


小泉は、ここで話すのは諦めて


「どこかで、ゆっくり話せないかな」


「・・・・帰ってください」

「え?」

「俺には、何も話すことはありません」


海翔は、名刺を付き返し
部室に戻ってしまう。

拓海は、何が何やらわからず
小泉の方を見て

「あの~」

「あっ、これ鈴井君に渡して、いただけませんか?」


小泉は、海翔に
突き返された名刺を、拓海に渡す。


「あっはぁ~・・・」

「またお伺いします、とお伝えください。」


小泉は、会釈をして、その場を立ち去る。


拓海は、名刺を見つめ


「弁護士・・・・?」







部室


拓海が、恐る恐る入ってくる。
海翔が、不機嫌そうな顔をして
座っている。

「海翔?」


海翔が、拓海をにらみつける。


「何だよ、怖いな」

「あっごめん・・・」


今度は、うなだれる海翔。


「これ・・・」


拓海は、先ほど渡された名刺を
海翔に差し出す。
海翔は、目を反らし、受け取ろうとしない。


「弁護士が、お前に何の用だったんだ?」

「・・・・・」

「まぁ話したくなけりゃ、いいけど・・・」

「・・・・・・兄貴の事で・・・」

「兄貴?・・・って、お前が小学生の時に
事故で死んだっていうお兄さんの事か?」


海翔は、頷く。


「何だって、今更・・・?」


海翔は、首を振る。







海翔には、6歳離れた兄がいた。

真面目で、優秀で将来は
実家の歯科医院を継ぐため
国立歯科大に、入学も決まっていた・・・
そんなある日、事故に巻き込まれ
帰らぬ人となったのである。

それは、海翔がまだ
小学校6年生の時の出来事であった。







あの弁護士の事は、気になったが
R☆Sオケのリハが佳境に入ったのと
サークルの方でも、演奏会が予定されていたので
海翔も拓海も、忙しくなり
そのうちあの弁護士の事も忘れ始めていた。






R☆Sオケの公演を、数日後に控えたある日。


この日は、本番で使うホールでの
最終調整が行われていた。

ホールの周辺には
R☆Sオケのメンバーやスタッフが
和やかに、雑談していたり、している。
その中には、懐かしい面々もいる。

そこに、あの小泉がやってきた。


「すいません」


雑談していたクラリネットの玉木
オーボエの橋本
双子の鈴木姉妹が振りむいた


「ライジング・・・え~と」


手に持っている書類を、みながら


「そうだ、ライジングスターオーケストラの
リハーサル会場って、ここですか?」


玉木が、答える


「ええ、そうですけど・・・・」


他のメンバーたちは
ジロジロ小泉を見ている。


「あぁすいません、私、こう言うものでして」


小泉は、名刺を差し出す。


「法律事務所・・・弁護士さん・・・」


「こちらに、鈴井海翔さん
いらっしゃるって聞いたんですけど」


「鈴井・・・あぁ海翔・・・
ん~俺は、まだ見てないけど・・」


玉木が答え、橋本たちを見る。


「私、さっき中で見かけましたよ」


鈴木 萌が答える。


小泉が申し訳なさそうに


「じゃぁすいません、
ちょっと呼んでいただけないでしょうか」

「あっはい・・・ちょっと待っててください」



萌は、ホールの扉の中に入っていく。


「私も行く」


後から、双子の薫もついて行く。


残された玉木&橋本たちは
小泉を気にしながらも

雑談の続きを始める。






鈴木姉妹は、中に入り
人が集まる観客席の前の方に、向かう。

ぐるっと見渡すも、海翔の姿は見えず
困っていると
端の方に、拓海の姿を見つける。

二人は、拓海の所まで、小走りで向い


「拓海君、海翔君知らない?」

「え?あぁあいつなら
さっきトイレいきましたよ
どうしたんですか?」

「ん~外に、お客さんが来てるんだけど・・・」


険しい顔になる拓海


「誰かわかりますか?」

「え~なんか、弁護士って言ってた、ね」

「うん」

「またか・・・」

「拓海君知ってるの?じゃぁ対応してよ
海翔君戻ってこないみたいだし」

「でも、俺が行ってもな~」


渋々立ち上がる拓海

周りを見渡して、そばにいた他のメンバーに


「ねぇねぇ海翔戻ってきたら
外に客が来てるって伝えてもらえますか?」

「いいよ~」

「よろしくお願いします」


拓海は、鈴木姉妹とホールの外に出る。


「あの人」


萌が指さした先には、やはり小泉がいた。



「ありがとうございます」



拓海は、小泉の元に向かう。

拓海に気が付いた小泉は


「あっこの間の、こんにちは」

「こんにちは」


警戒しながら、挨拶をする拓海


「あれ?海翔君は、いなかったのかな?」


「いや、今トイレ行ってて、戻り次第
こっちに来るように言ってありますので
もうすぐ来ると思います。」

「あの~」


拓海が、何か言おうとした時

扉が開き、海翔が出てくる。


「拓海」

「あっ海翔」

「あっ海翔君」


小泉の姿を見た海翔は
眉間にしわを寄せ、警戒する


「なんなんですか、こんなところまで」

「いや、どうしても、海翔君に
お伝えしたい事がありまして」

「別に、俺は聞きたくないですよ
今更兄貴の事故の事なんて」

「困りましたな・・・私の依頼人には
あまり時間がないんですが・・」

「依頼人?」

「依頼人って、誰なんですか?」

「ん~それは・・今の時点では
守秘義務もありまして・・・
どちらにしろ、ちょっと込み入った話になるので
この場では・・・」


拓海は


「これから、俺たち練習があるんです
本番があさってなんもんで」

「そうでしたか・・・じゃぁその本番が
終わってからの方が、いいかもしれませんね
まぁ話を聞いてくれる気があるならですが・・・」


海翔は、下を見たまま、動かない。

それを見た拓海は

「じゃぁすいません、本番が終わったら
こちらから必ず連絡させますので
それまで待ってもらえますか?」


海翔は、ビックリして、拓海の方を見る


「それくらいなら、大丈夫だと思います
でも、なるべく早い時期に
お願いします。」

「はい、お約束します」

「では、私は、これで」


小泉は、会釈をして、その場を立ち去る。

小泉の姿が見えなくなると
海翔が急に拓海に言い寄る


「拓海、何勝手に約束なんかしてるんだよ」


「だって、ああでも言わなきゃ
あの人また来るぞ
こんなところまで来るくらいだ
だったらこっちが主導権握って
対応した方がいいだろう?」


「・・・・・」


「それにしても、何で、お前のとこなんだ?」


「え?」

「だって、普通なら親の所に行くだろう?」


「・・・・」


そこへ、ヒカルが、やってくる


「皆、通し練習始まります
各自準備してください」

「は~い」

その場にいた、ほかのメンバーは
各々、扉の中に入っていく。

海翔は、どうするか迷っている。

拓海は、やさしく海翔に話しかける。


「海翔、行くぞ、今いろいろ考えても
しょうがないだろ、
今やらなきゃ、いけないのは練習だ
俺らがいかないと、皆に迷惑かかる」


海翔は、拓海の目見て、黙って頷く。

そして、二人も扉の中に入っていく。

そんな二人を心配そうに
見つめるヒカルであった。








☆☆☆


海翔君には、お兄さんに関しての
複雑な事情があるようです。

お兄さんの事故に関しては
次の回で、詳しくお話いたします。
な~んてね