自分の心配をしに、わざわざパリまで来てくれた峰夫妻。

真一は、峰を連れ出し、あの場所に向かった。






☆☆☆


真一は峰を、昔から行きつけのバーに連れて行った。
そこは、歴史のありそうな建物の地下にあり
未だに、携帯の電波も繋がらない静かに飲むには
うってつけの場所だった。


「へ~なかなかいい感じの所じゃないか・・・お前らしい」

「そうか・・・ふっ・・・」


二人は、一番奥の他からはあまり見えない席に着いた。

そこへ、真一たちより、年配の老人がやって来た。


「シンイチ、久しぶりだね」

「!パトリック?どうして?
もうとっくに隠居したって・・・」


後ろから、今度は、真一たちより
かなり若い中年男性がやってきた。


「シンイチが来るんじゃないかって
数日前から店に顔出してたんだ」

「クリス・・・あぁ峰・・・
こちらのご老人は、元々ここのオーナーで
パトリック、で、こちらが、息子のクリス、現オーナーだ」

「どうも」


峰は、軽く会釈した。


「大学時代からの友人で、リュウタロウ・ミネ。」

「ボンジュールムッシュ・リュウタロウ」

「ボ、ボンジュール、ボンジュール」


峰は、慌てて、挨拶しなおした。

パトリックは、二人を見て


「シンイチ、友達が来てくれてるなら、大丈夫だね
安心したよ、じゃぁ私は、これで・・・
ゆっくりしていってくれ」


それだけ言って、店の奥に引っ込んでしまった。

クリスも、ウンウンと頷きながら
カウンターの方へ戻っていった。


「パトリック・・・」

「・・・・千秋、もしかして、あのじいさん、お前を心配して?」

「・・・・みたいだな・・・・俺は・・・
いろんな人に心配をかけていたんだな・・・」

「それだけ、お前やのだめが
愛されていた証拠じゃないか・・・」

「うん・・・・そうだな・・・」

「まぁひとまず、乾杯しようや・・・」

「あぁ・・・」

「あっ乾杯の前に・・・のだめに・・・献杯・・・
そして、俺達の再会に乾杯」

「乾杯・・・」


その後二人は、出会った頃の話や
のだめや真澄たちとの思い出話など
時に笑い、時に愚痴り、時に涙ぐみながら
尽きることなく、話し続けた。






閉店の時間になり、クリスが声をかけに来た。


「シンイチ、もう閉店だけど
少し待ってくれれば、車で家まで送るよ」

「え?いいのか?」

「だって、お友達、寝ちゃってるし・・・」


シンイチは、目の前で、すでに酔いつぶれている峰を見て


「そうだな・・・じゃぁ頼むよ・・・」

「OK」


クリスは、急いで店じまいを始めた。

そして真一は、寝ている峰に独り言のように、語り始めた。


「・・・正直・・・のだめが逝ってしまった日から
俺は・・・・自分だけ、なんで生きているのか
わからないでいたんだ・・・・
だって・・・・俺が・・・今の俺がいるのは・・・
すべてといっていいほど
のだめのおかげなんだ・・・・」

顔を伏せた真一の目に、涙が一筋こぼれた。

「そりゃ・・・オレ自身も死ぬほどの努力してきたさ・・・
それでも・・・日本にいる頃は
全然・・・自信が持てなかった・・・
というより・・・海外に行けないのに・・・
こんな努力する意味あるのかなんてさえ思った事もあった・・・・
それでも強がって、無理して肩意地張って・・・

それが、ある日・・・のだめに出会って・・・
そりゃ最初は、何なんだこの女は?
って思ったさ・・・・でも、それからなんだ・・・それまで
諦めかけていた指揮者になるための勉強・・
どころか、いきなり巨匠の弟子になれたり
実際オーケストラの指揮が出来たり・・・しまいにゃ・・・
幼い頃のトラウマで飛行機に乗れなかった俺が
海外留学まで出来るようになったのも・・・
全部・・・すべて・・・のだめのおかげなんだよ・・・・

だから・・・のだめのいない今・・・
これから俺は、どうやって・・・
何の為に・・・誰の為に生きて行けばいいんだって・・・・

でも・・・・今日、峰・・・お前と清良の顔を見て・・・・
そうしたら、横で心配そうに見ている美音や・・・ここにきて
パトリックやクリスに会って・・・・
あぁそうか・・・俺は・・・のだめだけじゃない・・・
のだめを含めた周りの人たち皆に
生かされていたんだって・・・」


静かに顔をあげる真一。
その顔には、もう陰りはみえなかった。

「だから・・・・弱音吐くのは、今日で最後だ・・・・
明日からは、今度は俺自身が
皆に恩返しをしていかなくちゃって・・・
これから残りの人生・・・
それが俺のやらなければいけない事・・
きっと俺にそれをさせる為に
のだめは一人で逝ったんだって思う・・・
だから、のだめが俺を迎えに来た時
あいつにバカにされないよう
胸を張って言えるように・・・・人生悔いなしってな・・・・」

「千秋・・・頑張れよ・・・ムニャムニャ・・」

「ん?峰起きてるのか?」

「・・・・・」

真一は、軽く笑った。
そこへ

「シンイチ、お待たせ、店の前に車回したから・・・
あっボクが担ぐよ」

「悪いな・・・クリス・・・ありがとう」

峰をクリスに託し、真一は決意を新たに、店を後にした。




数日後

見送りは、美音と樹里だけ。


「ごめんなさい、二人共。
パパ、今日位仕事休めばいいのに」

「いいんだ、あいつも残りの人生
悔いも無駄もない人生にしたいって
あいつらしいや・・・・美音ちゃん、よかったな・・・
いつものあいつが戻ってきて」

美音は涙ぐみ

「全部、峰さんのおかげです。
本当にありがとうございました」

「別に・・・俺は何にも・・・」

「いいのよ、美音ちゃん、龍に出来る事と言ったら
これくらいしかないんだから」

「清良、これくらいって・・・
ひどくね?まぁいいっか、あははは」

「これだもん、じゃぁ私たち行くね」

「はい、お二人共お体に気を付けて
日本の皆さんにもよろしくお伝えください」

「うん、じゃぁさようなら~」


そういって、二人は日本に帰って行った。

(結局、峰を一人で帰すのが心配だと
清良も一旦日本に帰国することになったのだ)





その後、千秋真一は、世界各国で勢力的に公演をこなし
晩年、幾度となく自然災害で壊滅的な被害を受けた日本では
音楽で元気を届けようと峰やヒカル達と協力し
全国を回って、無償で公演を開き
現地の若手音楽家とも共演したり、指導したりして
ボランティア活動を行った。

そして日本にとどまらず、世界でも、いろいろなところで
おなじように公演を開いて回った。

その功績が認められてか、実力か
自他ともに認める世界のマエストロになった真一は
90過ぎまで、現役でタクトを振った。

そして・・・・。












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