いきなりですが、二人の間に子供が産まれました。

千秋 琴音(ことね)

ヴァイオリンを始めて1年・・・のおしゃまな4歳の女の子。

そして、楓のお腹の中には、もうすぐ産まれてくる命が宿っています。





☆☆☆




日本で、出産するために、長女の琴音を連れて
帰国している楓。

臨月に入り、大きなお腹で、ソファで休んでいる楓。
そこへ、ヴァイオリンを抱えながら、泣きそうな顔で
琴音がやってくる。


「ママ~」

「ん?どうしましたか?」

「んと・・・あのね・・・」

「?」

「ヴァイオリン・・・上手に弾けません・・・」

「・・・・」

「どうしたら、上手に弾けるようになりますか?」

「・・・・琴音さん・・・ヴァイオリン弾くの楽しいですか?」

「・・・・(泣きそうになりながら)ことちゃんね・・・
えぐっ、一生懸命弾いてます
でもね・・・えぐっ・・全然上手に弾けません・・・・
だから・・・えぐっ」

「そんなんじゃ楽しくないでしょう?」



黙って頷く琴音。



「琴音さん・・・よく聞いてください・・・」


琴音は、楓の目をジッと見て


「上手に弾こうとしなくてもいいんです・・・
楽しくもないのに、いくら練習しても、上手には弾けませんから
まずは、ヴァイオリンを楽しんで弾いてごらんなさい・・・
そうすれば、自然と上手に弾けるようになりますから・・・

ママも、小さい頃、よく薫ママに、同じこと言われました
それで、難しい曲の練習をやめて
一番好きな曲を、何回も弾いてみたのを覚えてます・・・・」

「ママは、上手に弾けるようになりましたか?」

「はい、気が付いたら、一番好きな曲が
一番上手に弾けるようになってました。
そうしたら、不思議と難しい曲も
あんまり難しく感じなくなってました。
しかも、前より上手に弾けるようになってました。」

「ママ、すごいです・・・ことちゃんにも出来ますか??」

「はい・・・きっと出来ると思いますよ
琴音さんの大好きな曲は何ですか?」

「ん~とね・・・きらきら星!」

「あ~ママも、大好きな曲です~じゃぁきらきら星を
琴音さんの好きなように弾いてみてごらんなさい」

「うん、あっでも・・・
その前に・・・ママのきらきら星、聴いてみたいです・・
ダメですか?」


キラキラした琴音の目に


「えっ・・・・はぁ~しょうがないですね・・・・」

楓はにっこり笑って、大きいお腹を支え

「よっこいしょ」

といいながら、立ち上がった
その瞬間

「うっ」

「ママ?」

「いたっ・・・・え?どうしよう・・・」

「ママどうしました?お腹痛いですか?」


楓は、床に膝をつき、テーブルの脚を支えにしながら


「うっ・・・こと・・ね・・・すま・・・ほ」

「スマホ?うん」


琴音は、テーブルの上にあった楓のスマホを取りに行った。
そこへ、ちょうど着信。

見ると、ヒカルからだった。



「あっパパです!アロ~パパ?」

「アロ~琴音さん?楓さんは?」

「あっママね、お腹痛いって言ってます」

「え?楓さんに代われますか?」

「ん~とね・・・・」


琴音は、楓の方を見るが、楓はそれどころではない様子。


「パパ、ママ痛いって泣いてます。ことちゃんも涙出てきました」


琴音は、泣き出してしまう。


「え?どうしよう・・・あっ琴音さん?聞こえますか?」

「えぐっえぐ・・うん・・・」

「よく聞いてください、もうすぐ琴音さんは、お姉さんになります。
と言う事は?わかりますね?」

「えぐっ・・・赤ちゃん産まれるんですか?・・ぐずっ」

「そう、だから、パパは、薫ママに電話しますので
一度電話切ります。
琴音さんは楓さんの所に行って、背中を摩ってあげてください
出来ますか?」

「ぐずっ・・・ことちゃん・・・
ぐずっ・・・がんばって・・みます。」

「はい、よろしくお願いしますね、じゃぁ切ります」

琴音は、スマホをテーブルの上に戻し
急いで、楓の所に行く。

「ママ、大丈夫ですか?ことちゃん、パパに頼まれました。
背中摩ります。」

「うっ・・・ありが・・とう・・・うっ・・」

「えぐっ・・・ママがんばってください
ことちゃんもがんばります」


琴音は、泣きながらも、一生懸命、楓の背中を摩った。

そこへ、今度は、玄関のブザーが鳴る。

ブーブー

琴音は、顔をぐしゃぐしゃにしながら


「ママ、誰か来ました?」

「こと・・ね・・・出られる?」


琴音は楓の顔をじっと見て、涙を拭い、力強く頷いた。

琴音は、玄関のドアを開ける前に

「どなたですか?」

「あっ琴音ちゃん?ママのお友達の彩夏おばちゃんよ」


ガチャと玄関が開くと
ポロポロと涙を流す琴音の姿に彩夏は驚いて


「琴音ちゃん?!どうかしたの?」


「えぐっ・・あやかちゃん、ママが赤ちゃん、産まれます」

琴音は、混乱している。


「え?楓?赤ちゃん?大変!!」


彩夏は、慌てて中へ入り、リビングへ
ソファの前で倒れて、苦しがっている楓を見つける。


「楓!」


楓は、すでに破水もしていた。


「救急車?いや、病院だ!楓?わかる?」

「あ、やか・・・スマホに・・・登録・・・」

「あっそうか?え~っと、スマホスマホ?」

「あやかちゃん、テーブルの上にあります」


見ると、涙を拭きながら琴音が教えてくれた。

「あっ本当だ、ありがとう琴音ちゃん・・・えっっと
あった〇〇産科・・・あっもしもし、千秋楓の家の者ですが
陣痛と破水してます、どうすれば?あっはい」


彩夏は、苦しむ楓にスマホを差し出す。


「ごめん、本人に代われって」

「・・・・もしもしっ・・・
はい、いたっ・・・はい5分置きかな・・・
はい・・・彩夏・・・代わって」

「あっうん、もしもし、あっ立見です。
楓の友人で、たまたま訪問して・・
はい、4歳の子供が一人います。
他の家族?は、今外出中みたいです
はい、双子なのは聞いてます。
え?助産師さんが?はい・・・わかりました」

電話を切った彩夏は

「今、こっちに助産師さん向かってるって
それから判断してくれるみたい」

「うっうん、ありがとう」






しばらくして

ブーブー

玄関のブザーがなる。

「はい、楓、待ってて、琴音ちゃん、楓をよろしくね」

「はい、わかりました」


すっかり泣き止んでいた琴音は、また楓の背中をさすり始める。


「ママ、もうすぐです、頑張ってください」






病院から派遣されてきた助産師が
子宮口の開き具合を確認して、エコーも見る。

「もうだいぶ降りてるし、出口ももう結構開いてる。
病院まで間に合わないかもしれないので、ここで産ませましょう」

「え?ここで?」

彩夏と琴音は、ビックリして顔を見合わせる。





ここからバタバタだった。

途中、ヒカルに連絡をもらった薫が帰宅。
予想外の展開に、大わらわ。

2時間後・・・・





「オギャ~オギャー」

「はい、まず一人目、元気な男の子」

後から来た小児科医に、引き渡し

助産師は、二人目に取り掛かる

「ほら、もう一回、いきんで、苦しいのは赤ちゃんも同じだからね~
はい、せ~の!ん~~~~~~~~~~」

「んぎゃ~~んぎゃ~」

ほどなく、二人目、こちらも元気な男の子。

無事に、双子を出産した楓は、後処置をしてもらい
産後の検査を受けるため、救急車で、赤ちゃんと共に
病院に向かった。

付き添いは乗れないので、薫と彩夏は琴音を連れて
後から病院に向かった。





彩夏の運転で、薫はパリのヒカルに電話していた。

「そうなのよ、間に合わなくて・・・
でも無事に産まれたわよ、二人共元気な男の子、おめでとう!
ヒカル君、一気に3人の父親ね
はい、了解、伝えとくわ」

彩夏は、運転しながら

「はっぁ~それにしても、びっくりしましたよ
顔見に来たつもりだったのに
いきなり出産に立ち会う事になるとは・・・
それにしても、琴音ちゃん偉かったですね」

「本当、あの子がいなかったら、今頃どうなってたか・・・
ふふふ、疲れちゃったのかな」


薫が、後ろを見ると
後部座席で、安心したように寝ている琴音。


「さぁ気を付けながら、急ごうか」
「そうですね」

彩夏は、安全運転で、病院に向かった。







翌日

正太郎も駆けつけた。

「楓ちゃん、ビックリしたよ、帰ってきたら
もう生まれたって言うじゃない?
何が何やらで・・・あはははは」

「おじさんごめんね、まさか私も、こんなに早く
出てくるとは・・・あははは」

「そうよね?予定日までまだ2週間もあったし・・
私もつい油断しちゃったわよ」

「まぁ2回目だから、少しは
早くなるかもとは言われてたんだけどね・・・
先週の検診でも、まだねって言われてたから・・・」


そこへ、峰龍太郎が顔を出す。


「よっどうだ?」

「龍さん!早いわね、情報が」

「千秋が、知らせて来た、ヒカルがそっち向かったが
俺にも、様子見て来てくれって」

「龍ちゃ~ん!」


琴音が、峰に飛びつく。


「よう、琴音、元気だったか?
一気に、二人のお姉ちゃんだって?すごいな~」


峰は琴音を抱き上げる。

琴音は、嬉しそうに頷く。

楓は、目を潤ませ


「お義父さんが?・・・そっか・・・」

「千秋も、気が気じゃないだろう・・・どれどれ」


峰は、琴音を下し、楓の横で
すやすや寝ている子供たちの顔を覗き込む。


「お~お~よく寝てるな~当たり前だけどそっくりだな
間違えたりしないのか?」

「ん~とね、うまい具合に、目印があって・・・
先に生まれたお兄ちゃんの右目の横に
ほくろがあるの」

「へ~あっ本当だ、ふふふかわいいな~
うちの弦太が生まれた時を思い出すよ」

「弦太君かぁ~しばらく会ってないけど、いくつになりました?」


正太郎が峰に聞いた。


「え~と・・・あいついくつになったんだ?
そういや、オレも最近見ねぇな・・・あははは」

「ちょっと~自分の息子でしょ?大丈夫なの?」

薫が、笑いながら聞き返す。

「いいんだ、あいつは、小さい頃から、自由にやらせてる。
勿論、よっぽど困ってる時には、助け舟も出してきた。
今は、自分の力で、何とかやってるみたいだし
警察の世話になるようなことがない限り、俺的にはほっといている。
まぁ清良は、心配性だから、ちょいちょい連絡してるみたいだがな」

「ふ~ん、何やってるかも知らないの?」

「俺はな」

「まぁ龍さんらしいといえばらしいですけどね」

「あははは」


「そういえば、お義父さんも、普段はヒカル君のやる事には
ほとんど口出さないって言ってたけど
琴音が、お腹に出来たってわかった時に・・・

お義父さんが、お義母さん、のだめさんの出産の時に
日本に帰らせてあげられなかったからって
私の時は、絶対に日本で産ませてあげなさいって・・・
でも琴音の時は、いろいろあって、帰ってこられなかったから
今度は、必ず・・・って、言ってくれたって・・・
ヒカル君が言ってた」

「そっか・・・千秋がね~
まぁあいつは一見、冷たそうに見えるが
意外と世話好きで
困ってたり悩んでるやつ見ると、ほっときたくても
ほっとけない太刀なんだな・・・
まぁそれも、のだめのおかげでもあるんだが・・・」


峰は、時間を確認しながら


「そろそろだな」

「ん?なにが?」

「ヒカルの奴、昨日、電話の後
すぐ飛行機手配して、飛び乗ったらしい。
予定だと、あと1時間くらいで
成田に着くはずだから、迎えに行ってくる」


「え?龍さん、行ってくれるの?」

「だって、お前ら、これから学校だろう?暇なのオレ位だし」

楓は、目を潤ませながら

「龍さん、いつもありがとう」

薫も涙ぐみながら

「本当、いつも楓やヒカル君の事、気にかけてくれて・・・」

峰は照れながら

「よせやい、オレはただ、ヒカルは、親友の息子で
俺にとっても二人目の息子みたいなもんだし

楓は、小さい頃から
見守ってる親戚のおじさんみたいな気分なんだ
だから、気にするな
オレが勝手にやってる事だ、じゃぁ行ってくる」

「龍さん、よろしくお願いします。」


正太郎も、深々と頭を下げ峰を見送った。

それを見ていた楓はポツリと

「・・・私ね・・・龍さんの事・・・親戚のおじさんっていうより
3人目のお父さんみたいな感じなんだ・・・」

「3人目?」

「だって、1人目はパパでしょ?」

「二人目は?」

「決まってるじゃない、正太郎おじさんよ」

「え?ボク?ボクが、楓ちゃんのパパ?」

「あたりまえじゃない、家族を亡くして
ここまで育ててくれたのは
薫ちゃんと正太郎おじさんだよ、もうお義父さんでしょ?」

正太郎は、感動で言葉に詰まり、ウルウルしている。

薫は感心したように

「それで・・・3人目が龍さんって事か・・・」


「で、4人目がヒカル君のお義父さん、気が付けば
私、4人もお父さんがいる!すごい!」


それを聞いて琴音が

「ママのおとうさんって事は
ことちゃんのおじいちゃんですか?」

「そうよ、琴音さんにもお爺ちゃんが
4人いる事になりますね」

「すごいですね~ことちゃん、すごいです~」


琴音は、無邪気に喜んでいる。
そんな琴音を見て、3人は顔がほころぶ。


「あっ薫さん、ほんわかしている場合じゃないです
そろそろ仕事行かなきゃ」

「あら、もうそんな時間・・・琴音ちゃん、薫ちゃんたちと
彩夏ちゃんのおうち行こうか?」

「うん!」

「薫ちゃん、お願いします。
琴音さん・・・、ごめんね一緒にいられなくて・・」

「大丈夫です、ことちゃん
もうお姉さんですから、ママはゆっくり休んでください」

「ありがとう、じゃぁまたね」

「ママ、またね~」

「うん、じゃぁまたね~」


無邪気に手を振り、病室から出て行く琴音の後姿を
なんとなく寂しいような頼もしような複雑な気持ちで
手を振り、見送った楓であった。







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